“Inner Voice (内なる声)”とは疑わしいものだ。
人々はその“Inner Voice (内なる声)”とやらについて語らうし、私自身もそれに耳を傾け、そしてその助言を聞き入れることも時折ある。
しかしそこには疑いの念も付きまとうのだ。
はたしてその声は真の自分からのメッセージであるのか、はたまた己の中に潜むエゴがまるで腹話術師のように私を操っているのか。
真実はいつだって分からない。
ー しかし、この時ばかりは違った。
それはボンベイから日本への19日間に及ぶ旅の最終日だった。
船のデッキにいた乗客たちは、肌寒い秋風をしのぐように身を寄せ合い、本州と呼ばれる細い灰色の地平線が刻々と濃い色に染まっていくのを眺めていた。
私の真隣に立っていた男が「どのくらい日本に滞在予定なのか?」と尋ねてきた。
ニューヨークを出発し丸1年をかけて陸路を旅し、その最後の数週間はネパールとインドだった。
私はやせ細り、旅疲れをしていたが、1つだけ十分に理解していたことがある。
それは、念密に計画された旅行プランがあったとしても、運命のいたずらに出会ってしまうのは避けられないということ。
だからこそ2ヶ月間の日本滞在というのは、自らに課した制限にすぎなかったのだ。
その時はちょうど10月の中頃だったのでクリスマスまでにはニューヨークへ帰国している予定だった。
運命のいたずらから逃れるのと、自分の不安を一掃するために、断固とした決意で答えた。
「2カ月」
私の口からその言葉が出た瞬間、風の中の声が「2年だ」と囁いた。
その言葉を否定するかのように頭を左右に振り、大きな声で「2カ月」ともう一度言った。
質問をしてきた男は一歩後ろに後ずさりながら「あぁ、ちゃんと聞こえてるって」と答えた。
そして声が言った。 「2年だ」。
私は初めて日本に到着した1969年10月17日から1971年11月3日まで日本に滞在し続けた。
2年と17日間だった。
コメント
Charles 続きを楽しみにしています。(“⌒∇⌒”)